マイナス思考なのには訳がある

「こうなった原因って?」おいらが訊ねると、

「この話をするのはちょっとめんどうなんだけど、聞く気ある?」彼女はじっと考え込むように下を向いたまま話し出した。

「あたしたちがマイナス思考なのには訳がある」

「あたしたち?」おいらが少し不満顔に切り返すと

「ごめん、テイセイ、あたしが、だよね」

おいらの返事も待たずカサンドラはさらに続けた

「まず最初に話しておかなくてはならないのは、ゴリラと猿の話なのよ」

おいらは意味がつかめず、とりあえず目で話の続きを促した

「ゴリラは、、、」

彼女の話をまとめると京大の先生の研究なのだそうだが、ゴリラは家庭的で、毎日家族でご飯を食べる。いつも一緒に行動し一人ずつのベットで寝る。10頭前後の集団で生活し、それ以上には増えない。父親は父親の役割があり、家族の前でその役割をいつも果たそうとする。一方サルはもっと社会的集団で父親はわからないが集団で子育てをする。持つものと、持たざる者がはっきりしている格差社会で、食事も個別に取るらしい。集団をつくる数も数十頭まで増える。

さらに、ゴリラは相手に接近してコミュニケーションをとる習性があり、時には人間でも仲間に入れてくれることがあるのだが、サルは決して人間を仲間とみなすことはない。

では人間はどちらなのだろうか?人間は家庭的でもあり、同時に社会的集団にも属すことができるのだ。そして、これを同時にやることは実は簡単ではない。

さらに、ゴリラやサルとの一番の違いは、人間は白目の部分が大きいので、相手の表情が読める所にある。

「へー、そう、それがなに?」実は話が長いので、話の途中でカサンドラの話の腰を折ってしまった。

すると、カサンドラは表情を一変して、

「人の話を最後まで聞けよ、この馬鹿やろーーー」ってすごい剣幕でおいらを怒鳴りつけた。まるでどっかの国会議員みたいな感じで、おいらはまるで不動明王のような彼女の剣幕に心底ビビった、ホント、一瞬で固まった。喫茶店内の視線が痛かった。が、彼女は気にする様子もない。集中するとすべて忘れるタイプ?、のようだ、、、。

そして、サルの話が終わると、一息つく間もなく

「ンで、ここからがあたいが言いたいことなんだよ」先の般若のような剣幕はとっくに消えて、目がきらっと光った。その表情の激変にも驚いた。

「あたいの母ちゃんは、7歳のころに母親、つまりあたいのばあちゃんが死んじゃってね、義理の伯母さんに育てられたんだ。その人は、なんって言うか、いわゆる意地悪ババアで、大変だったらしい。そんなこんなで、自分の母親のことなんてまるで知らないから、いざ自分が母親になると、どうしていいのか全く分からない。今のあたいみたいに、こどもをどやしつけるか、急に可愛がるかのどっちかで、そんでやたらとお使いばっかいいつけるし、たった4歳のころから毎日、毎日、毎日、毎日、、、、近所に総菜買いに行かされてたんだよっ!」

おいらは、「毎日、まいにち」の下りを6回まで数えたんだが途中でやめた。

ちょっと、いやかなり芝居がかっていたので思わず吹き出しそうになったが、ここは必死で吹き出すのを我慢した。

ここまで一気に彼女の話を聞いて、さすがに察しがよくないおいらでも話の筋がつかめてきた。

 

「母親はいつも父親の悪口というか、愚痴ばっかりこぼしていた」と今度はおいらがゆっくりと言った。

カサンドラがおいらを見る目に涙が浮かんでいた。おいらはそのまま続けた。

「おいらの父親は子煩悩だったが、母に対してはそんなに好きではなかった。母は一度として生まれ育った村を出て生活したこともなく、他人の釜の飯を食べたこともない、世間知らずで、家庭的でもない母が不満で、いつも些細なことで怒鳴りつけていた」

「でも父はもの凄い子煩悩で、学校の授業参観日には必ず顔を出していたし、小学校から高校までいつもPTA会長を自分から好んで引き受けていた。人の面倒見がよく、仕事は二の次だった。むしろ、仕事というよりお金を稼ぐことが苦手だったのだろう」

そこまで言うとカサンドラは

「そうなんだよね。あたいたちがマイナス思考なのは、ゴリラのようなほのぼのとした家族の物語がないから」

なんだと言い切った。

ほのぼのとした家族の物語、、、、。

 

確かにそうだ、じゃあ、創ればいいじゃないか、楽しい家族の物語がないのならば、今からだっていいから創ればいい、きっとあのコーチならそう言うと思う。そんなことはおいらでも分かっている。楽しい思い出だって10こ作れないわけではない。でも、そうなんだ、カサンドラにはわかっているはずなんだが、頭で楽しいと思うことはいくらでも作れるんだが、本心で楽しいかどうかは、、、

 

ハートが決めることなんだ。

 

つまり、すべては家族の物語のバリエーションって言うことになる。いつも楽しくワイワイと食事したり、笑いあったり、愚痴ばっかり言わず、ケンカしてしてもすぐに仲直りできたり、お互いに尊敬しあったり、信頼しあったりできるような家族の物語があれば、いつでもそれはちょっとだけストーリーや登場人物を変えてすぐに再生産できる。でも、そうじゃなかったらなら、、、今この瞬間に楽しいことを思い出し、(それはできる)しかし、、そこに留まることは実は簡単ではない、ということになる。

 

ついでに言うと、ゴリラでもありサルでもあることを同時に行うにはかなりの能力が必要なのだろう。事実、婿養子で子煩悩な父はいつもお金で苦労していた。一方、じいちゃんはそれほど家族というものに価値を置くような人ではなかったが、社会的にはいつも成功を収めていたのを思い出す。

「マイナス思考が身についてしまったらゴースがいいよ」

「身につくって?」おいらが言うと、

「そうね、あたいの母ちゃんみたいに、ネガなことばかり吐く人ってこと」

そうはなりたくないよと、カサンドラがつぶやいた、ように見えた。

「ああ、なんか、腹減った。カルピスの炭酸割と、キュウリの漬物が食べたい」とカサンドラはぽつんと言った。その顔はすでにいつもの無表情な顔に戻っていたがどこか穏やかな感じがした。

 

 

 

キョジャッキー

キョジャッキー

大学生で1年留年中の身です。身長169cm、体重50kg。慢性的な金欠のため、日々様々なバイトおよび危ない?仕事に精を出す日々ですが、頑張っていきます!